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プロジェクト指向出版:(5)なぜ、いまなのか

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ebook情報コモディティの生産と流通としての出版ビジネスは、オンラインが圧倒的に有利であり、アマゾンの優位はそこにある。しかし書店に引き籠っていてはグーテンベルク出版の最後の日を待つばかりだ。出版の主導性は、コモディティを超える社会的価値としての「大きな目標」を訴求し、実現する能力に懸かっている。

プロジェクト指向とは何か

project3プロジェクトとは、大きな目標を達成する組織的・協調的な事業を意味する。相当な時間・コストを投入するもので、期限があり、事前の調査と計画、実施に当たっての管理、事後の評価を必須とする。プロジェクトの主体は必ずしも企業や行政である必要はない。個人でもよい。現代の出版がプロジェクト・アプローチに適しているのは、以下のような理由からだ。

  • 知識コミュニケーションによる新しい価値の伝達には一定の期間を必要とする
  • 複数のサービス、メディア、異種専門家からなるチームを必要とする
  • ITサービスの利用により計画・運営・管理を可視化することが可能になった
  • デジタルによって大きな投資を必要としなくても可能となった

サービスがソフト化、ネットワーク化された21世紀にあって、プロジェクトは予算規模によるのではなく、目標の性格とアプローチによるのである。出版をプロジェクト化することは、基本的に、次のことを意味している。

  1. 社会に受け容れられる、明確な目標を持つ
  2. 特定のジャンル、読者層、発行形態にフォーカスした事業を対象とする
  3. 1冊の本ではなく、複数のタイトル、メディアで出版する

必ずしも壮大・新奇な目標ではなく、(古典など)価値が定まっているコンテンツを社会や海外に普及させることを目標にしてもよいし、自主出版にまで広げるならば、一つのテーマから一定のジャンル/読者層にアクセスし、認知を得てコンスタントに売れる著者/グループとなることを目標にしてもよい。

project4プロジェクト指向には、戦略設定や資源配分、管理手法などが必要になるが、多くの出版社がそうした経営システムを持っていない。数多の経営/管理工学の専門書・入門書を世に出していても、その内容を実践することには関心がないようだ。嫌味を言っているわけではない。これまでの出版においては、そうなっても仕方がなかった。紙の出版はコストがかかり、個別化する情報需要に対して消費者にアクセスする有効な手段がなかったたからだ。これにE-Bookがオプションとして加わったからといっても、状況は変わらない。フォーマットではなく、消費者に知ってもらい、買ってもらうまでが問題なのである。

デジタル時代の出版社の真の課題は、インターネットを有効に使って(想定)読者にアクセスすることだ。一人一人の(想定)読者に、説得力を持ったコンテクストを提示すること。それまでは、コンテンツもフォーマットも、ほとんど有効な成果を期待できない。そして、顧客とコンテクストを操るライバル/パートナー(たとえばアマゾン)には対抗できない。

「なぜこれまで」と「なぜこれから」

従来の出版社がプロジェクト的アプローチとまったく無縁であったわけではない。しかし、創業期の出版人や大規模な辞書・事典や全集など「社運がかかった」ものを除いて、出版社は単発主義が基本だ。しかし、「一冊入魂」と「数撃ちゃあたる」は遠いようで近く、結果もさして変わらない。企画や著者・内容・造本などは出版の成功(最低限、採算点を上回るかどうか)の決め手にはならないのだが、出版社は、販売のノウハウも、手段も、資源も持っていなかった。なんとかやってこれたのは、不思議というほかないが、もうやっていけない段階に入ったのは周知のとおり。

engagement3やってこれたのは、「紙と再版(規制)」の矛盾=非効率を、デジタルによるコスト低減と粗製濫造(コモディティ化)で補ってきたからだ。市場が縮小に転じてからの点数の増加は異常なものだった。しかし、雑誌・マンガのために存在した流通の空洞化が進み、持続が困難になった。新書、雑誌、マンガなどは、もともと多くがWebに吸収される必然性を持ったビジネスで、逆に最も紙と親和性の高い(つまりデジタルと共存すべき必然性の高い)書籍を支えるのは不可能であり、共倒れしかない。崩壊は時間の問題となった。

紙に関しては「絶対的なメディア」であった書店が、インターネット革命によってその地位を喪ったというのが決定的で、それによって<認知→購入→共有>という消費者の行動がネットの中で完結するようになった。アマゾンはまず紙の本で本のメディア環境の構築を成功させてから、E-Bookによって選択肢を拡張するというアプローチをとった。消費者を顧客リストとして管理しているほうが強いのは当たり前だ。コモディティ化したコンテンツを伝統的流通と価格で提供するなどということがいつまでも通用するわけはない。出版は移行戦略を急ぐか、クラッシュ後を待つかの選択肢しかない。

グーテンベルク出版の最後がどんなものとなるかはともかく、それが出版の最後ではない以上、筆者は「これから」のことに集中したいと思う。社会は紙であろうとなかろうと、出版(必ずしも出版社ではない)を必要としている。

プロジェクト指向は読者指向である

デジタル時代の出版において最も重要な存在は、(想定)読者であり、多くはネット上にいるが、現在はアマゾンだけが有効にアクセスしている。しかしそれに限界があるのは、当然ながらアマゾンが出版社ではなく、付き合いももっぱら「消費者としての読者」であることだ。大きなテーマを持たない出版において、コンテンツはコモディティ化するしかないし、コモディティの扱いに長けているのはアマゾンだ。

Create-engaging-content著者と読者の間に立つべき必然性があるのは第一に、プロジェクトの主宰者であり、(著者との関係が最も濃い)出版社であると筆者は考えている(出版社にその気がないなら話は別)。アマゾンは限界をよく知っており、自主出版(著者)を支援することで実質的に出版社として振る舞おうとし、さらにアマゾン自身も出版社をやっているが、それは「ワン・オブ出版社」でしかない。そして「大きな目標」はアマゾンには適していない。

消費者と読者の違いは「エンゲージメント」の有無である。それは出版がビジネスではない部分(大きな目標)を強く持っているところから生まれる。ガジェットにおけるエンゲージメントはアップル、消費におけるエンゲージメントはアマゾンというふうに、マーケティングで得られるエンゲージメントは独り勝ちになりやすいが、出版はそんな単純なものにならない。テーマ、内容、表現に限界がない出版では、読者の共感・関心・参加が得られる「大きな目標」を設定し、「読書空間」をネット上に新たに構築することは新参者にも可能である。

デジタル出版において「世界」は無限に創造し拡張・変化させることができる。しかしそれはプロジェクトにはなっても、単発の出版企画にはなじまない。まず新しい世界にはビッグネームがいないし、もちろん読者もまだ知らない。出版社は著者を知らず、著者も出版社を知らない。がんばって出版しても、成功する確率は低い。著者/編集者/読者はまず互いを発見し、新しい「世界」の意味を確認し、知的好奇心を刺激し、固めていかなければならない。最初から書籍というのはほとんど問題外なのだ。

出版の再建にプロジェクト指向が必要な最大の理由は、知識・情報のコミュニケーションが、市場的な交換行為に置換えられない、社会的・精神的な価値の共有という側面を持つためである。本がコモディティではないと主張することは簡単だが、金儲けに強くコミットしている出版社にはエンゲージメントは得られないだろう。 つづく  (鎌田、06/22/2015)

1. コンテンツからサービスへ?
・活字=版の希少性の終焉
・サービス主導による出版の変質

2. サービスのデジタル化の進展
・出版のエコシステムとデジタル化:個別から連携へ
・インターネットは著者と読者までエコシステムに引き入れた

3. サービス化を超えて
・サービス化によって出版が直面する2つのリスク
・出版の価値の継承
・サービスはシステムを最適化する活動

4. 価値からの再出発(前回)
・版は仮想化しても結晶化した知識の価値は不滅
・出版は「知識/情報」の価値を伝える事業である

5.プロジェクト指向の出版(今回)
・プロジェクト指向とは何か
・「なぜこれまで」と「なぜこれから」
・プロジェクト指向は読者指向である


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